中古車センターのトリック

中古車センターのオヤジは、前回よりもさらに愛想がいい。一文の価値もないような車に、またお金が入ってくるとなれば当然だろう。まずノーマルに挨拶をかわし、彼の事務所に通される。私はわざと、ドアを開けっぱなしにしておいた。夫が事情を話す。BMW代理店で告げられたことをそのまま伝え、「そんな車には残りの半額など払えない」と。案の定、「中古の車ですからね」の答えが返る。悪辣なトリック(カムフラージュ)で売った事実を認めようとしない。「それは、あまりにもひどいんじゃないですか?詐欺のようなものですよ」と夫。すると、今まで紳士面だったオヤジが急変。猫撫で声だったのが、ドスのきいたやくざ口調になった。「フン、不満があるなら、警察へでもどこへでも訴えりゃいいだろ」そこで私、言ってやった。大声でどなった。「なんだってぇこんなことしておいて、まるでマフィアだ!」ドアはすでに開けてある。店内にいた客たちにもしっかり聞こえ、皆、こちらを見つめだした。ヨタリきっていたオヤジは、急にシューン。したて「じゃ、残額の半分、ということで」と、急に下手に出た。声が弱々しい。強い語調で「ノー」と言う。また、みんながこちらを注目する。さらに意気消沈ぎみのオーナーは、残額の五分の一ぐらいを支払うことで承知したのだった。

ネクタイを買いに行った時の話

唯一、アンティパティコで通しきった見上げた根性のイタリア男がいたっけ。この際なので詳細を書いてしまおう。ミラノのガレリア内にある紳士専門洋品店でのこと。この店はスカラ座に向かって左手、ドゥオーモ側近くに位置する小さな老舗ブティックだ。父、母と歩いていた時、ショーウインドー越しに、イタリアンデザインも美しげなネクタイを見つけた。「あら、いいんじゃない、お父さんに?」と母。ファッションに疎い父は、いつだって母の言うがまま。無言で領く。こういうところが日本男性、とくに古いタイプの男性のいいところだ、と海外に暮らして思うようになった。こちらの男性は、服装に関する主張が強い。フランス人である夫とて同じ。背広からネクタイ、果ては下着に至るまで、自分好みじゃなければ身につけない。「男なんか、外見のことでゴチャゴチャ言うべきじゃないのよ。問題は中身なんだから」の主張を持つ私。ファッションすべて母まかせの父みたいな男性を好ましく感じる。その日も、母の目に止まったネクタイにOKサインを出した父。すぐ店内に入り、希望の品を求めた。忘れもしない、中太り、若干禿頭ぎみの三十前後のその男。面倒そうにショーウインドーでネクタイを確認、店内のケースから取り出す作業を始めた。「これですね?」「いえ、違います。似てるけど、デザインも色もちょっと違います」「そーですか~……」